当事務所でもご相談の多い相続財産に貸家やアパート等の収益物件(以下分かりやすいように収益物件を「アパート・マンション」に統一します。)がある場合は、その後の家賃や手続きはどうなるのか?といったご不安についてまとめた内容を記載します。
相続発生!アパート・マンション家賃収入は相続人のうち誰もの?
被相続人の死後もアパート・マンションの家賃収入が発生し続けます。厳密に言えば、時期や状況に応じて帰属する人が異なります。誤解を恐れず大まかにパターン分けすると下記①~③に分類できます。
①相続発生前のアパート・マンションの家賃収入
(さらに細かく、家賃収入が通帳に振込まれている場合、又は現金保有している場合やそもそも未回収の家賃収入である場合も考えます)
②相続開始から遺産分割協議終了までのアパート・マンションの家賃収入
③遺産分割協議終了後(不動産取得後)のアパート・マンションの家賃収入
下記の項目以降でそれぞれについて見ていきます。
相続発生前のアパート・マンションの家賃収入
既に被相続人の通帳の口座に振り込まれている家賃収入は?
相続開始前までに発生し通帳に振り込まれていた家賃収入については相続財産(預金)になります。預金について以前は相続人各々が法定相続分を預金債権として金融機関に請求できました。
しかし、現時点では、平成28年12月の判例変更により、預金債権は当然分割とはならないことが確認されました。
預貯金が遺産分割対象となると、今後は、各相続人からの法定相続分に基づく払戻請求については否定される流れになると思います(最高裁平成28年12月19日大法廷決定)。
被相続人である大家が家賃収入を現金で保有していた場合は?
現金については、金銭債権ではなく、物として考えることになります。現金は経済的価値として数えることが(例えば、1円何枚、10円何枚、100円何枚、1000円何枚・・・・合計いくらという形で数えることが)できますので可分である金銭債権のようにとらえることもできますが、法律上では100円玉を物として共有していることになります。
お金という「物」の共有状態なので、遺産分割協議が終わるまで、相続人の一人が自分のものとして勝手に使うことはできません。
実際の現場では、すぐに使える現金を葬儀費用等に充てるということもありますが、それは立替金として処理し、相続人全員の合意上支出を認めたという事後処理になっているだけですので、揉めそうな場合は手を付けるべきではありません。
被相続人が未回収の家賃(滞納家賃収入)は?!
賃借人の未払いにより回収できていない家賃収入(滞納家賃収入)は、大家が亡くなって相続人が複数いる場合には、貸主である大家の各相続人の法定相続分に応じて分割されます。
この場合、滞納家賃収入は、不動産の貸主としての地位に基づいて家賃を請求する権利となるため(法的性質は不可分債権といいます。※説明すると長くなるので、法律専門家以外は当該本質的な意味合いについて、すっ飛ばしてかまいません)、各相続人は、自分の相続分に限らず、家賃全体を請求できます。
大家が亡くなった後の滞納家賃については、各相続人の共有財産であるため、各相続人がその持分に応じて賃料債権を取得することになっています(平成17年9月8日最判)。
相続開始から遺産分割協議終了までの不動産家賃収入
相続開始から遺産分割協議が成立するまでに時間がかかる場合があります。
例えば、相続人が遠方に多数存在するなどの事情で遺産分割協議が複雑である場合や、紛争でまとまらず時間がかかる場合等様々なケースがあります。
ここで収益物件であるアパート・マンションの家賃収入が入っている状態であるならば、このお金は誰のものでしょうか。
「遺産は、相続人が複数いるときは、相続開始から遺産分割までの間、相続人全員の共有状態、その間に発生した賃料債権は遺産とは別個の財産というべきであって、各相続人がその相続分に応じてそれぞれ単独で取得するものであり、後にされた遺産分割の影響を受けない。
したがって、相続開始から遺産分割が確定するまでの間に不動産から生じた賃料債権は、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、これを前提として清算されるべきである」(平成17年9月8日最高裁判決)。
よって、アパート・マンションの家賃収入は、相続開始から遺産分割確定までは、すべての相続人に、法定相続分で分けられるということになります。
遺産分割協議終了後(不動産取得後)の不動産家賃収入
単純に考えて頂ければわかりますが、遺産分割協議によって、特定の相続人が収益物件であるアパート・マンションを取得することが決定(遺産分割協議が終了)した以後の家賃収入については、その相続人が取得することになります。
貸主(大家)に相続発生した場合の敷金は?
収益物件であるアパート・マンションの敷金預り金とは?
敷金と預かり保証金について、地方によっては名称や取扱いが異なるようですが、土地や建物を他人に貸して地代や家賃を受け取る賃貸借契約を結ぶときに、初めに貸主が借主から受け取る金銭の一種です。
そのうち、礼金などとは異なり、あくまで貸主が借主から預かっている金銭になります。賃貸借契約が終了して、借主が退去するときに、未払い賃料や原状回復費用と精算して、貸主が借主に返還する必要があります。
賃貸契約継続中の貸主に相続が発生したということは、収益物件であるアパート・マンション貸主の地位がそのまま相続人に移ることになります。
このとき、特段の事情がない限り、賃貸借契約の貸主の地位も、新たな所有者となった相続人が引き継ぎます。
つまり、賃貸不動産を相続する人は、アパート・マンションだけではなく、敷金・預かり保証金を返す義務も相続します。
賃借人が退去する等返済する必要が出てきたときに、相続財産に不動産しかなければ、自分の財産から支出しなければならない事態が起こりえます。
実際には遺産分割で相続後の賃料もお話しして分配しているのが実務です。
賃貸物件家賃振り込み変更通知を送る!
従って、貸主の相続人らで円満に話し合いがまとまっていて、貸主の一人が代表で不動産を相続・管理していく場合には、賃料を受け取る旨の口座変更通知を借主に出しましょう。
また、遺産分割を行い、相続による名義変更(相続登記)をしっかりしておけば賃料の帰属について揉めることはないです。
しかし、貸主の相続人間で物件の所有争いが起きた場合には、話し合いや裁判がまとまらないうちは、借主になるべく通知せずに法定分を分ける口座を作り対応する方法がありますが煩雑です。
このような事態が発生しても事前に相続人らが対応できるように大家である貸主は遺言や家族信託等の対応を練っておくのが重要です。
賃貸契約再締結をする!
また、賃貸契約書についてですが、貸主の相続人の意思で一方的に契約条件を変更することはできません。契約ですので変更するにも借主の合意が必要です。
賃貸契約書に不備や追加したい文言があれば次の更新の時期を待ってから借主にお話しした方がトラブルなく済みます。もちろん、日ごろから信頼関係がある借主については、変更をお願いしてみてもよいです。