超高齢社会では、空き家の増加だけではなく、一人暮らしの方の高齢化に伴う、孤独死が増加しています。
当事務所でも孤独死された方の相続処理案件は毎年増えています。そこで今回は、孤独死の葬儀費用についての相続放棄を解説します。
孤独死が発見された。葬儀費用について相続放棄はできる?
孤独死が発見された場合の流れは?
孤独死を発見した近隣住民、福祉関係者、大家等から警察へ通報され、ご遺体の身元を調べ、ご遺族のもとに連絡が入ります。
警察から事件性がないと判断されたのち、身元がわかればご遺族にご面会の上、ご遺体を引き渡されます。
その後は、ご遺体を安置しておくため、葬儀社を決めて手配します。
孤独死でお亡くなりになった方にご遺族が見当たらない場合は?
身元がわからない場合は、死亡の所在地の自治体がご遺体を引き受けます。身元がわからないご遺体のことを「行旅死亡人」と呼びますが、
行旅死亡人は、各自治体が直葬(火葬のみの葬儀のこと)を執り行います。
※住居にて発見された孤独死のご遺体の遺留品中に身分証明書があった場合でも、本人と断定できなければ、行旅死亡人(身元がわからない方)として取り扱われます。
行旅病人及行旅死亡人取扱法7条には、
「行旅死亡人(身元がわからない方)がいるときは、その所在地の市町村が、その状況や容貌、遺留物件などの本人の認識に必要な事項を記録した後で、そのご遺体の火葬、埋葬をしなければならない」
と規定しているからです。
孤独死でご遺族が見当たらない場合は、葬儀費用は誰が行い誰が支払うの?
行旅死亡人の取扱費用については、同法11条に
「死亡人の遺留金銭若しくは有価証券をもってこれに充て、なお不足する場合は相続人の負担とする。相続人より弁償を得られないときは、死亡人の扶養義務者の負担とする。」
と規定されています。
つまり、簡潔にいえば
① 死亡人の財産から充当します。
② 不足する場合は相続人の負担とします。
③ 相続人が支払う資力がない場合や相続放棄した際は、
死亡人の扶養義務者の負担とします。
そして、最終的に不足分の弁償金が回収できない場合は、自治体が負担します。
孤独死でお亡くなりになった方にご遺族がいる場合、孤独死した方の火葬埋葬は?発生した葬儀費用は?
身元がわかるご遺体の場合、警察からご遺族や血縁者等に連絡がきますが、
お亡くなりになられた方との過去のご事情(ギャンブルで借金を作って出て行ったから関わりたくない、暴力を振るわれた、縁は切れている、疎遠になっている等)により、
ご相続人自身も引き取りできないときは、どうしたらよいのでしょうか。
孤独死のご遺体引き取り拒否は可能ですが、相続放棄とは別問題
警察から連絡が来た際にご遺体の引取りを拒否する旨を伝えます。その後は、「墓地、埋葬等に関する法律」(墓地埋葬法)に従い自治体によって火葬埋葬を行います。
墓地埋葬法第9条には、
「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。」
と規定されているからです。
遺骨の引き取り拒否も可能ですが、相続放棄とは別問題。
孤独死の場合は、発見の遅れからご遺体が部屋の中で長期間放置されていて、腐敗している場合もあります。
その場合には自治体によって直葬された後に遺骨が引き渡されることになります。そして、葬儀をどのように行うのかご遺族が決めることになります
孤独死の場合の遺骨の引き取りも拒否が可能ですが、遺骨を保管している自治体から担当寺院が引き受け、無縁仏として合祀墓に納め、供養されます。
ご遺体や遺骨の引き取りは拒否したが、かかった葬儀費用の請求はどうするの?
墓地埋葬法第9条2項には
「・・・埋葬又は火葬を行ったときは、その費用に関しては、行旅病人及行旅死亡人取扱法の規定を準用する。」
と規定されています。
つまり、先ほども身元がわからないご遺体の場合に説明したように、自治体が執り行った火葬や埋葬の費用は下記の順番で処理されます。
死亡人の財産から充当→なお不足する場合は相続人の負担とする→相続人が支払う資力がない場合や相続放棄した際は、死亡人の扶養義務者の負担とする。
そして、繰り返しになりますが、最終的に不足分の弁償金が回収できない場合は、自治体が負担します。
つまり、相続人は、自治体から葬儀費用の弁償請求がきます。
この場合、相続人であれば相続放棄をすれば、最初から相続人でなかったことになるので支払いをする必要はなくなります。
扶養義務者として請求を受けても、資力がなければ支払う必要はありません。この場合は葬祭扶助が使える場合もあります。
従いまして、相続人兼扶養義務者の方の場合、財産の相続放棄をしたとしても、必ずしも費用負担なしとはならないので注意が必要です。
亡くなった方が生活保護または生活に困窮した状態だった場合
葬儀の費用は、亡くなった方が生活保護受給者だった場合は、葬祭扶助というものが自治体から支給されます。
具体的な条件としては、生活保護を受けていた方が亡くなって、その葬祭を行う扶養義務者がいないとき、亡くなった方の財産では葬儀に必要な費用を支払えないときに葬祭扶助の申請ができます。
また、相続人自身が生活保護を受けており葬儀を執り行う場合も、葬祭扶助の手続きができるということになります。
葬祭扶助は、約20万円程支給され、その金額の中で執り行われる葬儀を「生活保護葬」等と呼ばれています。この葬儀では、直葬(火葬)までしか行われません。
葬祭扶助は、必要最低限の検案、ご遺体の運搬、火葬または埋葬、納骨その他葬祭において必要なものを範囲としています。
葬祭扶助が受けられるかどうかは、実際には自治体の福祉課等が最終的に判断を行うことになっていますので該当する管轄に相談すべきです。
葬儀をする場合、葬儀費用は誰の負担?
葬儀についての費用は、法律に明確な規定がありません。葬儀費用を、喪主の負担とする裁判例はありますが、個別具体的な事情に基づく判例なので普遍的に通用できるものではありません。
実務では、相続人間で相続財産から支出するのが多いのですが、紛争になりそうな場合等個々の事情によりケースバイケースです。
次回は、孤独死の相続放棄と特殊清掃費用や損害賠償請求について解説します。
孤独死相続放棄や財産の遺産整理でお困りの場合、当事務所でご相談しております。
※電話での無料相談はしておりませんのでご了承ください。