相続についての記事です。財産の性質によって法定相続できるか否か変わってしまいます。今回は現金の話!

(事例)
亀さんは不動産会社の社長で、実質的な経営権は前妻との子である長男の亀一郎にまかせている。亀さんには他に二男の亀二郎と三男の亀三郎がいる。前妻とは離婚しており、亀さんには現在新しい奥さんの鶴さんがいる。しかし、二人の間に子供はいない。

亀さんは70歳近くで病気がち。土地や建物・預金・株券を所持しており、これらの遺産を鶴さんと子供三人にどうわけるか考え、多数の銀行口座を解約して6000万円を金庫に保管していたところ、その1か月後に亡くなってしまった。

このあと、三人の子供たちと鶴さんの遺産分割協議がまとまるわけもなく、サラリーマンであった亀二郎は現金がすぐに欲しかったため、現金を法定相続分で分割を要求した。

これは認められるのか???

法律上預金であれば可分債権であるから法定相続分の請求は認められる。つまり、6000万円が預金であれば、遺産分割協議がまとまらなくとも亀次郎には6分の1の1000万円の支払いを受けられます(銀行が争いに巻き込まれたくないため対応しないだけ)

ところが、遺産である現金については、相続開始とともに各続人に対して相続分に応じて当然に分割されるものではなく、動産や不動産と同様に遺産分割の対象になると解されています。つまり、今回の事例で子供三人は現金の法定相続分の支払いを請求できません。あらかじめ亀さんが遺言で対応しておくか、相続後に裁判になってしまいますね。

  判例↓
(東京高判 昭和63年12月21日) 
現金は、被相続人の死亡により他の動産、不動産とともに相続人らの共有財産となり、相続人らは、被相続人の総財産(遺産)の上に法定相続分に応じた持分権を取得するだけであって、債権のように相続人らにおいて相続分に応じて分割された額を当然に承継されるものでないから、相続人らの間でいまだ遺産分割の協議が成立していない以上、本件現金に関し、法定相続分に応じた全員の引き渡しを求めることができない。
(最高裁平成4年4月10日)
相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。